グローバル社会で求められる「社会課題解決型ビジネス」とは

グローバル社会で求められる「社会課題解決型ビジネス」とは

国際人材への道―HNIの「サマサマ」モデルに学ぶ

現代の大学生がグローバル・キャリアを構想する際、単なる語学力や海外勤務経験を追い求める段階はすでに終わっている。今、世界が切実に求めているのは、国境を越えた「社会課題の解決」と「持続的な経済性」を高度に両立させる力、すなわちソーシャルビジネスの設計能力だ。
 

6月30日、株式会社ハンディネットワーク インターナショナル[*1] (以下、HNI)の春山哲朗社長が、関西学院大学商学部の3年次ゼミで特別講義をされると聞いて、指導教員で国際人的資源管理論の第一人者である古沢昌之教授[*2] のご理解を得て取材をさせて頂いた。

日本の喫緊の課題である介護人材不足に対し、インドネシアとの間に「信頼の回廊」を築くことで解決を図る先駆者、HNIの事例は、途上国を単なる労働力の供給源とみなす旧来のモデルがいかに脆弱であり、対等なパートナーシップに基づく戦略がいかに強固なビジネスモデルを構築するかを、私たちに鮮烈に示している。

 


1.    日本の介護現場が直面する「人材定着」の壁

日本の介護業界において、外国人材の活用は拡大しているが、その現場は「定着」という高い壁に阻まれている。受入側が目先の採用コスト抑制を優先するあまり、構造的な不利益を外国人材に強いている現状がある。

離職を招く主要因を分析すると、以下の3点に集約される。

•    多額の負債による心理的圧迫(ブローカー介在の問題): 来日前に教育費や手数料として多額の借金を背負うことで、返済への焦りが精神的余裕を奪い、より高い賃金を求めた離職や失踪を招いている。
•    言語障壁による孤立(ミスコミュニケーション): 日本語能力、特に会話力の不足は現場での取り違えや人間関係の悪化を直結させ、働く側の自己肯定感を著しく低下させる。

•   入国後の生活支援の手薄さ 現場の職員には相談できないことも多く、気軽に仕事以外の恋愛相談なども母国語で相談できる窓口がない。

 

これらの課題は、外国人材を「管理・制御」の対象として見る短視的な経営判断が招いた結果ともいえる。次世代のリーダーはこの失敗から、人材を「縛る」のではなく「貢献意欲」を高める仕組みへの転換が必要であることを学ぶべきだ。

2.    HNI独自の人材支援スキーム:驚異の「離職率3.1%」を実現する仕組み

HNIは、募集から教育、アフターフォローまでを一気通貫で行う「定着にフォーカスした」独自モデルを構築している。特筆すべきは、コロナ禍を経て入国が再開された2022年3月以降、2026年6月末時点で離職率3.1%という驚異的な実績を上げている点だ。しかもその主な理由は、結婚などの生活スタイルの変化が要因。

1.    国家間・教育機関とのガバナンス構築: インドネシア保健省と直接、MOU(基本合意書)を締結。[*3] 保健省傘下の国立看護大学38校から医療知識を持つ優秀な学生を直接募集することで、不透明なブローカーを完全に排除している。
2.    経済的・教育的安全性の担保: 受入法人が教育費を負担する「奨学金プログラム」を推奨し、候補者の「借金ゼロ」を実現。海外で就職を目指す優秀な学生を獲得する決め手に。さらに、提携校での半年間の教育。
3.    日本語会話集中プログラム:
ビザ取得までの6か月間を日本語の集中学習としてカリキュラム化し、株式会社ECCによる160時間の日本語会話集中講義を実施。現場でのミスコミュニケーションを未然に防ぐインフラを整えている。
4.    ライフ・サポートの質の追求: 登録支援機関としての義務的支援を超え、20代の「サマサマケアワーカー(HNI独自の呼称)」たちの生活・恋愛・病気といったプライベートな悩みまで24時間、日常的に吸い上げる体制を構築。問題が深刻化する前に解決を図ることで、強い信頼関係を醸成している。


 
「サマサマ」の精神:相互尊重が育む多文化共生


この高い定着率を支える「OS」の根底にあるのが、インドネシア語で「お互い様」「どういたしまして」を意味する「sama sama(サマサマ)」の精神だ。受入側と働く側が双方向に「ありがとう」と言い合える関係性を指す。この精神性は、単なる道徳的な美辞麗句ではない。相手を尊重し、その成長と幸福を支援することが、結果として「離職率の低下」という極めて高い経済的合理性をもたらすことを、HNIのモデルは証明している。

実績の比較:ビジネスモデルのProof of Concept(概念実証)

項目

特定技能1号 介護分野

HNI特定技能介護士(サマサマモデル)

離職率

10.6%

3.1%

実績の内訳

約2.6万人中 約2800名離職

295名中 9名離職(結婚などのための転職)

期間

2019年4月~2022年11月 累計

2022年3月~2026年4月末 累計

出展)出入国在留管理庁「特定技能制度運用状況」(2022年11月末時点)

創業者のビジョンと尊厳: HNIの創業者、春山 満氏[*4] は24歳で進行性筋ジストロフィーを発症し、首から下の機能を失いながらも「車いす社長」として日本の介護の常識を覆し続けた。2003年には米ビジネスウィーク誌で「アジアの星(Stars of Asia)」の一人にも選出された。彼が掲げた「利用者の尊厳を守る」という志は、現在、外国人材を単なる「労働力」ではなく、日本の高齢者の暮らしを支える「対等なパートナー」として尊重する姿勢に受け継がれている。

*次世代グローバルリーダーへのメッセージ*

HNIの事例から、春山氏は、国際キャリアを築く上で指針とすべき4つの教訓を提示していた。

1.    「信頼の回廊」を構築する: 単発の取引ではなく、現地の政府や教育機関との透明性の高いガバナンス(仕組み)を築くことが、ビジネスの安定性を決定づける。
2.    心理的安全性を設計する: 「借金ゼロ」や「徹底した言語教育」のように、相手が本来の能力を発揮できる環境をシステムとして設計すること。これは「慈悲」ではなく、勝つための「投資」。
3.    マインドセットの転換: 異文化を「活用」するのではなく「共生」の対象と捉えること。「サマサマ」の精神を持つことが、グローバル社会における個人の成長と組織の持続可能性を最大化する。

4.「社会課題の解決」をキャリアの核に

それは慈善活動ではなく、課題の難易度が高ければ高いほど、それを解決する仕組みは模倣困難な強固なビジネスモデルとなる。社会の負を解消し、関わるすべての人と「サマサマ」と言い合える未来を創造することだ。

ーー古沢教授からは、企業の海外進出に伴う「外へのグローバル化」と外国人労働者や外国人留学生の増加といった「内なるグローバル化」を連動させて考えることが重要で、学生たちには、隣人であり、成長著しいアジアの人々との国内外での交流を通して、相互理解を深めてほしいとのお話があった。ーー

参加した学生たちは、配布資料をしっかり予習したうえで、的を射た本質的な質問をしていた。たとえば、初めて外国人スタッフを受け入れる現場での日本人スタッフへの対応、施設の入居者やその家族への配慮、カントリーリスクへの向き合い方など、実践的な視点に注目していた。


これに対し春山氏は、不安を解消するために、施設の現場リーダーとともにインドネシアを訪問し、現地の教育体制を実際に見てもらっていることや、候補生本人と直接面談してもらっていることなどを伝えていた。また、現場の日本人スタッフ向けには、HNIのインドネシア人社員が受け入れに向けた研修を行っていることも紹介した。
さらに、イスラム教徒であるインドネシア人の特徴として、目上の人をとても大切にし、教えなくても片膝をついて会話をするなど、自然に高齢の利用者へ丁寧に接している様子も紹介された。学生たちも、こうした細やかな配慮に納得し、文化の違いなどにも感心している様子であった。

なお、古沢ゼミの学生たちは、7月にHNIがサポートするインドネシア人介護スタッフへのインタビュー調査を実施するとともに、8月には古沢教授が指導する関西学院大学商学部の東南アジア研修(インドネシアとベトナムを訪問)にも参加する予定である。

ゼミ生の皆さん(有本さん、樫原さん、叶岡さん、瀬戸田さん)と直接お話しする機会もあったが、身近な外国人の人たちと接して、問題意識を共有したり、留学生の生活支援のボランテイアをしたりと限られた時間を工面して「世界を知ろう」と努力している様で、また、新3年生の学生であったが、すでに、多くの人たちがアジアへの渡航歴もあり、すでに世界に目が向いていることは印象的であった。

左から,古沢教授,樫原さん,瀬戸田さん,春山代表,叶岡さん,有本さん,HNI顧問の小川氏


『我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった』*

春山氏の経営姿勢の様に、問題解決のためには敢えて労を負うことをいとわず、
また、普段からアジアの人たちと接して、SAMASAMAの精神を育むこと

それこそが、学生の皆さんに期待される真のグローバルリーダーの姿ではないだろうか?


*スイスの作家・劇作家であるマックス・フリッシュ(Max Frisch)によるものです。彼は1965年、ヨーロッパにおける外国人労働者(ガストアルバイター)の受け入れ問題を背景に、「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった(Man hat Arbeitskräfte gerufen, und es kamen Menschen)」と述べ、経済的な労働力としてのみ人間を捉える社会の姿勢に警鐘を鳴らした。

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ようこそ Japan! - グローバル社会で求められる「社会課題解決型ビジネス」とは
https://www.yokosojapan.net/article.php/20260702hni_feature_ja

[*1] https://hni.co.jp/
[*2] https://researchers.kwansei.ac.jp/view?l=ja&u=200001828&k=1&sm=affiliation&sl=ja&sp=51&target=kenkyu-gyoseki#inf_research_div_minus
[*3] https://hni.co.jp/news/%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%89%e3%83%8d%e3%82%b7%e3%82%a2%e5%85%b1%e5%92%8c%e5%9b%bd%e4%bf%9d%e5%81%a5%e7%9c%81%e3%81%a8%e4%b8%89%e8%80%85%e8%a6%9a%e6%9b%b8%ef%bc%88mou%ef%bc%89%e3%82%92%e7%b7%a0/
[*4] https://hni.co.jp/aboutus/founder/