2019/08/25 07:05

通訳の悩み

国際人

通訳の悩み

日中韓の国際会議の通訳をしていると、全ての通訳者と同じように、専門用語は最も大きな悩み、最も体力を費やす部分です。しかし、もう一つ違う悩みがあります。

呼称問題、つまり同じ地域或いは海域に対する呼び名がこの三ヶ国で違うということです。たとえば、「東シナ海」は、中国では「東海」、韓国では「東中国海」と言います。また、「日本海」は中国でも「日本海」ですが、韓国では「東海」。「尖閣諸島」は中国では「釣魚島」、竹島は韓国では「独島」となります。

それぞれの呼称にはその国の歴史や政治的な要素が色濃く残っているため、間違って通訳すると、誤解や不快感を招きかねません。

以前、韓国で日中韓3ヶ国会議の同時通訳をやっていた時のこと。私は日本語から中国語に訳す担当、韓国側の通訳は日本語ができないので、私の中国語を聞いて韓国語に訳していました。つまり、リレー通訳です。

日本人の発表者が「東シナ海」に関する発言をされていたので、私は中国語で「東海」と訳しました。それを聞いた韓国側の通訳者は韓国の「東海」と理解し、そのまま韓国語で「東海」と訳してしまいました。正しくは「東中国海」でなければならなかったのです。韓国側の参加者は東シナ海ではなく日本海と理解し、話しのつじつまが合わず不可解な思いをしたと言うことです…。

このような学術シンポジウムや文化交流など政治色のあまりない国際会議或いは政治的に敏感でない呼称に関しては、聞いている方々が理解しやすい呼称に通訳しますが、その逆の場合は、発言者が使っている呼称をそのまま使わなければなりません。

「尖閣諸島」や「竹島」がその例で、これについては、日本側の発言時にはそのまま、中国語側の発言時には「釣魚島」、韓国側の発言時は「独島」となるでしょう。

聞いている側の理解を優先するのか、それとも話している側の意思を優先するのか、時と場合によって的確に判断しなければなりません。通訳の悩みどころですね。
 
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張景子さんプロフィール・・北京外国語大学 日本語・日本文学学科卒業・

元中国国際放送局(北京放送)アナウンサー 
東京大学 大学院修士学位取得・博士課程修了
JCKフレンズ(日中韓関連事業)代表  立教大学 兼任講師
日中・日韓・日中韓3国の政府間交渉・民間交渉の遂次・同時通訳
NHKの中国語翻訳・ナレーション業務
東アジア評論家として「TVタックル」「太田総理」等の番組に出演

張景子さんのエッセイ集
 

1. 語学の達人

2. 美の延辺料理はいかが? 【縁香館】

3. 韓国語を学ぶ学生に聞きました

8. 国籍は単なるチーム分けのカテゴリー

10. 観光立国に必要なのはやはり言葉

 

日本語・韓国語・中国語を流暢に話す中国朝鮮族

同時通訳者の張景子さんよると、東アジア地域のグローバル化の影響で、日中韓の3カ国間の通訳が必要な会議が増えているが、張さんのようにその3ヶ国語を会議通訳レベルでこなせる人材はまだまだ不足しているそうだ。ところが、通訳レベルまでいかないまでも、日本語・韓国語・中国語を流暢に話せる人たちが、日本に5万人ほど暮らしている。彼らは、中国から来た朝鮮族と呼ばれ、多くは中学から日本語を第一外国語として学び、家庭では韓国語を話し、会社や学校に行けばもちろん中国語で話す。時々、日本に来て数年なのに驚くほど日本語が上手な中国人に遭遇することがあるが、大抵は朝鮮族の人たちだ。この人たちが活動しやすい環境をつくり、彼らのネットワークを生かせば、日本社会も一気に国際化が進むかもしれない。(編集者 宮崎計実)


『朝鮮族のグローバルな移動と国際ネットワーク』
「アジア人」としてのアイデンティティを求めて
アジア経済文化研究所 発行

アマゾンでレビューを読む

中国に住む朝鮮族が激動する国際社会の中へ飛び出し、グローバルな舞台で活躍する時代になって来ました。言語的才能に加え、世界に広がる同胞ネットワーク を武器とする彼らの存在を抜きにして国際経済が語れなくなる日も、すぐそこまで来ています。朝鮮族を軸とする新しい時代局面の到来につき、既に各国で数多くの専門家がさまざまな研究をしており、本書はそれらの論文を初めて一冊にまとめた出色の書であり、国際経済、国際政治、アジア文化の研究者にとり、まさに待望の書です。

李鋼哲(北陸大学教授) 和田春樹(東京大学名誉教授) 船橋洋一(朝日新聞コラミスト) 姜尚中(東京大学教授) 笠井信幸(アジア経済文化研究所理事)他執筆者多数