2024/04/26 17:14

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グローバルコミュニティー 8月号

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「日本の心」(作家・境野勝悟)より

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「日本の心」(作家・境野勝悟)より


『蟹工船』という小説を書いた小林多喜二という作家がいます。
この人は戦前、思想・社会運動を取り締まる特高警察に検挙されました。
取り調べといっても実際には、竹刀やムチで打たれたり、
投げられたりする毎日で、
目は腫れ、口は裂け、髪の毛もずぼっと抜けるなどのひどい拷問でした。

多喜二はやがて東京・多摩の刑務所に入れられますが、
北海道の小樽にいる多喜二のお母さんに、
5分間だけ面会が許されることになりました。


字の読めないお母さんは、刑務所からの手紙を読んでくれた人に、
「5分もいらない。1秒でも2秒でもいい。
生きているうちに多喜二に会いたい」
と訴えました。
貧乏のどん底だったので、
近所の人になんとか往復の汽車賃だけを借りて雪が舞う小樽を発ち、
汽車を乗り継いで指定時間の30分前に刑務所に着きました。

看守がその姿を見て、あまりにも寒そうなので火鉢を持ってきました。
するとお母さんは、
「多喜二も火にあたっていないんだから、私もいいです」
と、火鉢をよたよたと抱えて面会室の端に置きました。
今度は別の看守が朝に食い残したうどんを温め直して差し出しました。
お母さんは車中、ほとんど食べていません。それでも、
「多喜二だって食べてないからいいです」
と、これも火鉢のそばに置きました。

時間ぴったりに看守に連れられて面会室に現れた多喜二は、
お母さんを一目見るなりコンクリートの床に頭をつけ、
「お母さん、ごめんなさい!」
と言ったきり、顔が上げられません。
両目から滝のような涙を流してひれ伏してしまいました。

わずか5分の面会時間です。
言葉に詰まったお母さんを見かねた看守が、
「お母さん、しっかりしてください。
 あと2分ですよ、何か言ってやってください」
と言いました。
ハッと我に返ったお母さんは、
多喜二に向かって、この言葉だけを残り2分間繰り返したそうです。

「多喜二よ、おまえの書いたものは一つも間違っておらんぞ。
 お母ちゃんはね、おまえを信じとるぞよ」

その言葉だけを残し、お母さんは再び小樽に帰りました。

やがて出獄した多喜二は、今度は築地警察署の特高に逮捕され、
拷問によりその日のうちに絶命しました。
太いステッキで全身を殴打され、
体に何か所も釘か何かを打ち込まれ、亡くなったのです。

もはや最期の時、特高がまだステッキを振り上げようとすると、
多喜二が右手を挙げて、しきりと何かを言っているようです。
「言いたいことがあるなら言え」
と特高が水をコップ一杯与えました。
すると、多喜二は肺腑から絞り出すような声で言いました。

「あなた方は寄ってたかって私を地獄へ落とそうとしますが、
 私は地獄には落ちません。
 なぜなら、どんな大罪を犯しても、
 母親に信じてもらった人間は必ず天国に行く
 という昔からの言い伝えがあるからです。
 母は私の小説は間違っていないと信じてくれました。
 母は私の太陽です。
 母が私を信じてくれたから、必ず私は天国に行きます」

 そう言って、彼はにっこり笑ってこの世を去ったのでした。

お母さんは、字はひらがなぐらいしか読めません。
したがって、多喜二の小説は一行も読んではいないのです。
しかし、自分の産んだ子は間違ったことはしていない。
かあさんはおまえを信じている、と言ってくれました。
そういうお母さんに対し、多喜二は「母はオレの太陽だ」と言ったのです。

ここにおられる女生徒の皆さん、
あなた方はあと十年もすれば愛する人を見つけて結婚なさると思います。
どうかそのとき、その愛した男性に対して
「お父さま」とおっしゃってください。
どうか「尊い人」と言ってあげてください。

男性も女性から尊い人と言われれば、本当に命をかけて、
あなた方の命の安全と幸福のために汗を流して頑張ります。
人間のこの父母である夫婦が尊敬しあい、
いたわりあわなければ、子供が健全に育つはずがありません。

だから、皆さんの世代になったら、
ぜひ日本人の母になってください。
カミ様になってください。
男の生徒さんは、たくましく、
優しい日本人の男になってください。

そして、だれも真似できない太陽を胸に輝かせた
自分というものをしっかり確立してください。
それが、皆さんの永遠の心棒です。

「日本の心」(作家・境野勝悟)より

「料理の心得」 久司 アベリーヌ 偕子

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Cooking Attitude by Aveline Tomoko Kushi
「料理の心得」 久司 アベリーヌ 偕子 より



Besides having good-quality food and proper cookware, to be a good cook, the right attitude and frame of mind are also necessary. Here is another check list.
よい材料と適切な調理器具を用意した上で、良い料理人であるには、正しい態度と気持ちが必要です。 皆さんで以下の項目を確認してみましょう。 

1. A cook should leave all worries, problems, and angers behind as he or she relaxes mind and body into a peaceful, calm state of being. A cook’s thoughts and emotions are mixed into the food and have an effect on anyone who eats it. Here are some things, among others, to remember while cooking.
料理人は、全ての悩み、問題や怒りを捨て去り、平和で、穏やかな状態へと心と身体を落ち着かせましょう。 料理人の思考や感情は、調理された食べ物の中へと混入し、食した全ての人に影響をあたえます。 ですから、料理人は料理をしている間は下記のことに心をとめましょう。

A) Pour love and healing vibrations into the food, and imagine that whoever eats it will become healthier and happier.
愛と癒しの波動を食べものに注ぎ込み、それを食する誰もが更に健康で幸せになると想像しましょう。

B) Imagine that the food has the power to help individuals realize their dreams, and that with this tool comes the ability to vitalize and inspire whole civilizations. This is actually true.
食べものはひとりひとりの夢をかなえる力があり、そしてこの考えが、全ての文明を活性化し啓蒙する力を導く道具であると想像しましょう。 これは真実のことです。

C) Give thanks to the farmer, trucker, storekeeper, nature, the food itself, cookware companies, and anyone else who has made it possible to have these wonderful ingredients and utensils.
お百姓さんや、配達したくれた運転手さん、お店の店員さん、自然、そしてその食べものはもちろんのこと、調理道具を作っている会社、素晴らしい材料や調理器具を私達に与えてくれた全ての人々に感謝の気持ちをささげましょう。 

D) A cook can imagine that he or she is composing a symphony or painting a masterpiece as colors, textures, tastes, and smells are arranged into beautiful and dynamic combinations. Anyone who cooks should work to release his or her creativity and intuition. These develop with experience, so be patient and persistent.
料理人は、交響曲の作曲家や、名画を描く画家のように、色彩、歯ごたえ、味覚、嗅覚を美しく大胆な組み合わせで配列することを想像できます。 誰もが自分の創造性と直観を開放して料理をいたしましょう。 経験と共にこれらは発達します。 根気よく、辛抱強く続けましょう。

E) Realize that there is always more to learn. One should never become arrogant and think that he or she now knows it all. Be open and learn from everyone. We all have different perspectives and ideas and therefore we all have something to offer.
さらなる学びが常にあります。 どんな時も、けっして全てを知ったと横柄になるべきではありません。 心を開き、全ての人から学びましょう。 私達は皆、異なる観点や考えを持っていますから、何らか提供できるものがあるものです。

2. Clean and organize the kitchen and surroundings before, during, and after cooking.
キッチン周りは、調理を行う前、調理中、調理後においても、清潔にし、整頓いたしましょう。

3. Long hair should be tied back to prevent it from catching on fire as well as from falling into the food. Wear a clean apron and roll up long sleeves.
長い髪は後ろで結び、火がついたり、食べものに落ちたりしないようにいたしましょう。 
清潔なエプロンを着用し、長い裾は、まくりあげましょう。

4. Work quickly, calmly, and efficiently, economically making the most of one’s time. Avoid munching while cooking as this will really slow things down.
すばやく、落ち着いて、効率よく、時間を有効に使いながら、調理をおこないましょう。 
調理中のつまみ食いは避けましょう、この行為は実は進行を遅らせてしまいます。

5. Keep other activities and distractions to a minimum and concentrate all energies on the task at hand.
他の活動や気をそらすものを最低限にとどめ、目前の事柄(料理)に全てのエネルギーを集中させましょう。

6. When making a menu, first look at all leftovers and older vegetables and use these first. Do not waste any food. Avoid buying more perishables than needed. Check supplies first before going shopping.
献立を考えるときは、まずどんな残り物や使いかけの野菜があるか確認し、それらを優先して使いましょう。 食べものを粗末にせず、必要以上に買うのは避けましょう。 
買い物に出かける前には、家に何があるか確認いたしましょう。

7. Develop intuition and common sense in order to appropriately adapt meals to the weather, the season, the people for whom one is cooking, and one’s own needs. A cook should be aware of the daily needs and changes of others, his or her own moods, and any other influencing factors for that particular place and time.
天候、季節、誰に調理しているか、その人自身の必要としているものなどを適宜食事に取り込むために、直観と良識のある判断力を育てましょう。  料理人は、食べる人が毎日必要なものや変化、気分、食べる時や場所などその他影響を与える物事に常に意識しなければなりません。

8. Keep meals simple. Do not mash together a lot of different ingredients into one dish. Go light on seasonings and use them mainly to draw out and enhance the natural flavors of food.
お食事は簡素にいたしましょう。 
たくさんの材料を一品に混ぜ込むことはやめましょう。 
調味料は控えめにし、主に食材の自然な味を引き出すために、より引き立てるために使いましょう。

9. Decorate food beautifully, set the table using appealing tableware, and make the dining area comfortable and aesthetically pleasing. This enhances appetite and the dining experience.
食べ物を美しく盛り付け、素敵なテーブルコーディネートをして、ダイニングルームを快適で心から楽しませるように整えましょう。 これにより、食欲を促進し、食空間の体験を盛り上げます。

10. Take the time and place to relax, sit down, and peacefully enjoy meals with appreciation. Chew food thoroughly, the saliva helps digestion. Also it is best not to eat unless one is truly hungry.
お食事をするときは、落ち着ける場所に座り、感謝の心とともに、穏やかに時間をかけて、食事を楽しみましょう。
よく噛んで食べることにより、唾液が消化を助けます。
そして、本当にお腹がすいている時だけ、食事をするのがもっともよいことなのです。 

GLOBAL COMMUNITY 4月号 

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グローバルコミュニティーお役立ちリンク集

編集者より

 

 グローバルコミュニティーお役立ちリンク集

JAPAN ATTRACTIONS(ジャパンアトラクションズ)

 日本の魅力 JAPAN ATTRACTIONS

JAPAN ATTRACTIONS(ジャパンアトラクションズ)は、
日本の様々な分野(文化、芸術、歴史・寺院、芸能、グルメ、ポップカルチャ 
ー、観光地)の
イベント情報、ニュースを世界に発信するサイトとしてスタートしました。

日々日本の各地で開催される大小様々なイベントを、その規模にとらわれず紹 
介し、
日本ならではの多くの魅力を知ってもらい、体験してもらうこと、
それらの手助けになることを目的としたサイトを展開しています。

国内に在住の日本人のみならず、日本に訪れる様々な国の海外の方が、
より深く日本のことを発見できる、そんなサイトを目指し、日々日本のイベン 
ト情報を提供していきます。


JAPAN ATTRACTIONS introduce a variety of events and news in Japan for 
the tourist to enjoy the charms of our country. We help tourist to find 
the events to match their needs.

We strives to become the most informative website about the events and 
news in Japan by connecting both national and international tourist to 
valuable resources.

http://japan-attractions.jp

 

 

 

多文化情報誌『イミグランツ』 

 グローバルコミュニティーでは、多文化共生に詳しい元毎日新聞論説副委員長の石原進氏に2010年11月のアジアエンパワーメントの総括の記事を 書いていただきました。石原氏は、記者当時から日本における外国人問題に深い関心をもち、「多文化共生社会・日本」 の実現をはかるべく多文化情報誌『イ ミグランツ』を創刊されています。第一線のジャーナリストとして活躍された深い見識と、毎日新聞政治部副部長時代に培った豊富な人脈を活用し、 海外有識者ネットワーク 日本事務局長を努めながら、『日本社会の内なる国際化』の啓蒙活動を『イミグランツ』を通して地道に続けておられます。
『イミグランツ』は、以下の公式サイトよりお求めいただけます。

http://www.imin.co.jp/immigrants/

 

多文化情報誌『イミグランツ』  NO.4

 


特集1:東日本大震災と在日外国人・・被災地でボランテイア活動に参加した外国人の人たち

特集 2:『EPA』を問い直す・・待ったなしの人材不足。いろいろな角度からEPAのシステムを考える。

特集 3:『開国』から20年・・単なる労働者としてではなく、日本を作っていく仲間として。。

 

 

Come Back House,inc job information in Japan

http://overseaslink.jp/jobs/

 

 ■サイト名:外国人に特化した就職支援サイトJapanCareer

■サイトURL: http://www.japan-career.jp/
■紹介文:Japan Careerは日本で就職したい高度外国人のための就職支援サイトです。就職支援サービスでは、世界中の外国人学生に高度外国人を積極採用している企業を無料で紹介します。

義務でない外国人子弟の教育

編集者より
義務でない外国人子弟の教育
義務でない外国人子弟の教育


 岐阜県在住の日系ブラジル人は製造業を中心とした派遣労働に多く従事していますが、彼(女)らの雇用状況は昨年の未曾有の経済危機により大きく変動しました。
 ソニーの家電工場やトヨタ自動車の下請け企業等で就労し、地域経済を支えてきた日系ブラジル人は、景気悪化に伴い真っ先に「派遣切りの対象」として白羽の矢が立ったのです。岐阜県とは、就業者に占める外国人比率(2・3%)が全国1位という地域です(05年国勢調査)。
 日系ブラジル人の派遣切りは、将来に希望や夢を抱き、懸命に日本の学校やブラジル学校で学ぶ子どもまでにもしわ寄せがいきました。
 日本の学校の場合、多くの高校や大学の推薦入試が年内に、一般入試が1月以降に実施されます。こうした時期と保護者の失業が重なり、苦労して日本語を習得してやっと手にした県立高校合格通知を手放すこととなった子ども、家計を助けるために進学せずに働くことを選んだ子どもなど、子どもの心情を考えると、悔しい、遣る瀬無い事態が起こりました。
 しかし、私が出会ったこうした日系ブラジル人の子どもの中に、親や家族を恨んだりするような子どもは誰一人いませんでした。
 NPO法人可児市国際交流協会では、市内在住かつ日本の高校へ進学する外国人生徒2人に対し毎年奨学金を授与しています。これは地域住民の寄付で運営する教育基金で、同協会の事業として04年度に開始しました。今年4月、すべての申請者に奨学金が授与されました。経済的に困難な子どもが多く実在している現実を目の前にし、地域が少しでもお手伝いできたらという地域住民の柔軟な判断です。
 一方、ブラジル学校に通う子どもについては、保護者の失業等の理由で授業料の支払いが難しくなって学校を辞めたり、自宅に待機したりという事態が起こりました。
 日本にある多くのブラジル学校は正規の学校としての認可がとれず「私塾」扱いのため、地方自治体からの助成金もありません(岐阜県、静岡県、愛知県、三重県では各種学校の認可基準を緩和し、ブラジル学校計5校が認可されました)。また授業料に消費税が課せられ、通学定期券も認められていません。
 こうしたブラジル学校に通う子どもの就学を支えようと、岐阜県はいち早くその支援施策を検討しました。「現下の厳しい経済情勢及び雇用情勢を踏まえ、離職者等の雇用支援・対策等について全庁的な協議・情報共有を行うため」とし、08年12月8日に岐阜県緊急雇用対策本部が設置されました。
 その中で県国際課は、「県内の外国人労働者1万8571人が12月下旬までに少なくとも1700人が失業し、かつ解雇の計画が前倒しされて1月末までに約3千人が失業する。その結果、県内に所在するブラジル政府認可校4校と無認可校3校に就学する1千人の子どもが1月には400人に減少する」と、ブラジル学校の変動数を12月25日時点で試算しました。また、県内の公立小中学校に在籍する外国人児童生徒の異動状況も調査しました。
 これらを踏まえて岐阜県は、09年1月13日、全国に先立ち「ブラジル学校支援策(*)」の発表と至ったのです。
 岐阜県が発表したこのブラジル学校緊急支援策について文部科学省は、「学校法人の認可を受けていない所は公の支配に属しておらす、公金支出は憲法89条に抵触する」(中日新聞09年2月12日)とし、岐阜県の支援策を認めない姿勢を示しました。その結果、多くの議論と波紋が各地で広がりました。
 これに対し、子どもの姿が「見える」地方自治体は、決して怯みませんでした。とりわけ岐阜県国際課の担当者は、「幼児教室への公金支出をめぐり、東京高裁判決が支出は問題なしと判断した判例(最高裁も同様)」(東京高裁91年1月29日判決、昭和61年(行コ)第51号公金支出差止請求事件)を知り、この教室のある埼玉県吉川市まで行き、子どもが安心して就学できる策を模索しました。こうした地方自治体の尽力が実を結び、県内の計5市1町においてブラジル学校で就学が困難になった子どもの就学支援がついに実現しました(09年4月以降も継続)。
 未だ日本に暮らす外国籍の子どもは就学義務の対象外とされ、日本の公教育において子どもの学習権が保障されていません。このような現実の中、子どもの姿が「見える」地域住民や地方自治体は、国籍を問わず、地域に暮らすすべての子どもの就学を支える取り組みを実践しています。
 それは、「デカセギ」者から「定住・移住」者となった日系ブラジル人が、地域では住民の一員として位置づけられている証といえるでしょう。
 保護者の就労によって、子どもの学習権が保障されないような国であってよいのでしょうか。子どもの教育環境を整備することは大人の責務だと私は思います。すべての子どもが将来に夢や希望を描けることのできる社会になることを心から願い、私はこれからも微力ながら一助になるお手伝いを続けていきたいです。
 *【ブラジル人学校への緊急支援策】市町村の取り組みについて、外国人離職者の子どもに対してブラジル人学校等が行う授業料の減免に着目した一定額の補助(補助率2/3)を市町村振興補助金により支援する等という内容。

小島祥美(こじま・よしみ)

 愛知淑徳大学専任講師。大阪大学大学院にて博士号取得(人間科学博士)。埼玉県草加市生まれ。小学校教員、NGO職員を経て、研究のために岐阜県県可児市へ転居。日本で初めて全外国籍児童の就学実態を明らかにした研究成果により、可児市教育委員会の初代外国人児童生徒コーディネーターに抜擢。可児市の様々な実践は、外国人の就学を保障するモデル的な実践として全国から視察者が絶えない。2007年4月より現職。NPO法人可児市国際交流協会運営委員、愛知県小牧市多文化共生協議会委員長など

 ニッケイ新聞より抜粋

留学生の受け入れは、日本の総力をあげて行うべき事業

編集者より
留学生の受け入れは、日本の総力をあげて行うべき事業
留学生の受け入れは、日本の総力をあげて行うべき事業

独立行政法人 大学評価・学位授与機構長
木村 孟

政府が打ち出した「『留学生30万人計画』の骨子」に基づく具体的方策の検討(とりまとめ)が2008年7月に中央教育審議会大学分科会留学生特別委員会より発表された。座長としてとりまとめに当たったのが、大学評価・学位授与機構長の木村孟氏である。

留学生の受け入れは、日本が担うべき知的な国際貢献であり、我が国が安定した国際関係を築くうえでの基礎となる、というのが持論だ。計画発足の背景、そして達成に向けた課題について伺った。
国際貢献と安全保障としての留学生の受け入れの意義

――「『留学生30万人計画』の骨子」のとりまとめの中で、どのような議論があったのでしょうか。
木村機構長(以下敬称略) 外国人留学生に名を借りた不法就労が社会問題化している背景があり、数年来、留学生の数を増やすことについては賛否両論がありました。

それでも「数を増やそう」という方針となった理由は、まず一つは我が国の国際貢献という視点です。世界第二位の経済大国であり、世界一と言ってよい技術立国である日本が、他国の人材育成のお手伝いをすることはいわば当然のことです。日本が受け入れている留学生は現在約11万8000人。これは国力に見合った規模であるとは言えないでしょう。

もう一つは、安全保障政策としての留学生の受け入れです。私は1960年代にグラスゴー、70年代にケンブリッジと二度英国で研究生活を送りました。

当時は第二次世界大戦の影響がいまだ残っていて、英国南部の人たちの反日感情が特に強いと言われていたのですが、実際はロンドンや南部など、日本人と接触する機会の多い地域では反日感情が弱く、北へ行くほど、日本人を知る機会がないためか、反日感情が強いということがロンドン大学の調査で明らかになりました。

つまり「知らない」ということは反目を促す危険性を孕みますし、反対に「知っている」ということは親しみと理解を促す可能性を生むということです。

そういう意味で、国力に見合うだけの数の留学生を受け入れるということは、日本のナショナル・セキュリティーに大きく貢献することだと考えます。 2003年の中教審答申では「こうした人的ネットワークは、わが国が安定した国際関係を築く上での基礎となるものである」と述べています。
留学生の質を上げ量を増やすには大学の改革、国際化が必要

――「2020年までに留学生を30万人に」ということは、約10年で現在の三倍近くまで増やすことになります。政策から実際の受け入れまでさまざまなハードルが予想されます。
木村 政策上の課題から言いますと、近年大分縮まってきていますが、日本から留学で出て行く学生と日本に来る学生の間に数の面でアンバランスがあります。それとご承知のように、日本に来ている留学生の9割はアジアからで、中国がその中でも圧倒的に多い。

日本からはアメリカ、ヨーロッパに7割近く出て行っているので、ここにも大きなアンバランスがあります。数も増やしながら質も上げるにはまず日本の高等教育の質を上げる、そして日本の大学を国際化することが必要です。そのために私が提案しているのが、日本版ブリティッシュ・カウンシルの創設です。

ブリティッシュ・カウンシルはイギリス政府が運営する文化交流機関で、100カ国近くに大使館とは別にオフィスを設け、大学の情報提供や留学希望者向けの試験、留学前のサジェスチョンなどにワンストップで対応しています。

日本人の学生がイギリスに留学したいと希望する場合には、ブリティッシュ・カウンシルへ行けば、そこですべての情報を得られるという仕組みになっています。それに倣って、日本の留学生政策や各大学の政策、高等教育の状況など、留学生に必要な情報を一元管理する機関をつくろうということです。

では、受け入れる日本の大学の側に留学生を増やすキャパシティがあるのかというと、大学で非常に熱心に留学生をトレーニングしているのは工学、理学、医学、農学など主として自然科学系の学部です。丁寧にケアしている分、現実にはこれ以上、留学生を増やすのは難しいという声があがっています。ですから、私たちは自然科学系の分野については、大学院に特化して受け入れを増やす道を模索しています。

日本は自然科学系の学問が強く、2008年もノーベル賞受賞者が物理学から三人、化学から一人出ました。現在は9割がアジアからの留学生ですが、日本は自然科学系分野でこれだけの強さがあるのですから、欧米各国からの留学生増も期待できます。アメリカとヨーロッパの学生を日本の自然科学分野に、戦略的分野(Strategic Field)として、留学してもらう政策を徹底して検討していくつもりです。

アジアに対しては、アジア地域の11カ国が参加する大学間協定である「シードネット」というプログラムが、いまとてもいい動きをしています。これは、ODA資金を使った途上国援助の一環として行っているもので、工学系学部の修士以上の課程を対象にしています。修士課程については、日本を除く加盟国同士なら、どこの国の大学に行っても日本政府が留学資金を援助するというものです。

博士課程については日本の大学に短期または長期に滞在しなければなりません。2001年からスタートして2008年で第一期が終了しますが、修士は数百人、ドクターも100人近く輩出しています。いまこのようなネットワークが、アジア地域だけでも多数出てきています。

たとえば、元香港科学技術大学チア・ウェイ・ウー学長が提唱した「東アジア研究中心大学連合」もその一つです。日本、中国、台湾、韓国の理科系の研究で名のある一流大学が連携し、定期的に研究交流、学生交流を進めていこうという試みです。こういうものを積極的に活用し、日本にアジアの優秀な留学生を呼ぶための仕組みとして機能させていくことも一つの道でしょう。

専門学校、語学学校に対するサポートも重要です。専門学校は学位が取れないために留学生の関心が薄いのですが、日本には非常に優秀な専門学校があります。実践的技術や即戦力としての人材を必要とする国からの留学生の数は増えるはずです。それから語学学校、とりわけ日本語学校を充実させていかなければなりません。

現在も、特に中国人留学生の多くが、日本語学校で日本語を習得して大学に入学しているのです。留学生の質を高め、かつ数を増やすために日本語学校を整備することは、優秀な留学生が大学へ入学することにつながります。ただし、これにはビザの問題があります。留学生がらみの事件が過去に起きたために、就学ビザと留学ビザの区別をなくすことは容易ではないでしょうが、しかるべき所管機関を設置するなどして将来的には実現するべきでしょう。

留学生に関する政策は、法務省、外務省、文科省、厚労省などさまざまな省庁がかかわるため、「30万人計画」の実現には、省庁間の連携を深めることが大変重要です。しかし最も重要なことは、日本の大学を魅力的にすることと、日本の社会を魅力的にすることです。大学の改革、国際化とともに企業にも、留学生に対する意識を変えていただきたいと思います。毎年、留学生のうち、約1万人もの学生が日本で就職しています。驚くべき数字です。

しかし、就職先のほとんどが従業員300人以下の中小企業で、大企業は留学生の採用に対して積極的とは言えません。留学生としてきちんと学問を修めた人たちは、能力も人格も優れていると見てよいでしょう。大企業も留学生の採用に積極的になり、日本での就職の門戸がさらに大きく開かれるということは、日本の社会がより魅力的になるということでもあります。

また、留学生の住居の問題も重要です。大学もしくは公的な寮に入っている留学生は全体の20%強で、80%弱は民間の住居で暮らしています。現在の日本はGDPの150%近い借金を抱える国です。留学生受け入れのための官の援助はすぐには期待できません。これからは民間の努力がぜひとも必要です。民間の力を借りてリーズナブルな価格で外国人留学生向けに宿舎を提供することなどは、とても効果的で必要なスキームだと思います。
外国人を「知る」ことがよりよい社会につながる

――留学生を積極的に受け入れようと、主要な大学はプログラムの充実などさまざまな対策を講じています。
木村 大学の環境整備における喫緊の課題は、まず英語を話せる事務局員を育てることです。英語が話せて、面倒見がよくて、留学生からセカンド・マザー、セカンド・ファーザーのように慕われる事務局員が、それぞれの大学にいなくてはいけません。国立大学法人への移行等で人事の自由度が増して、主要な大学は外国語のできる人、留学生に関する仕事が好きな人を積極的に採用しています。これからそのような大学の動きを増やしていきたいところです。

また、英語による講義を増やす必要もあるでしょう。「せっかく日本に来ているのに、英語で授業するのはいかがなものか」という議論はあります。しかし、すべての講義や生活を英語でサポートするということではありません。生活では日本語を使い、日本文化に触れてもらえるよう支援しながら、主要な講義は英語で行うという態勢を整えていく。漢字の分からない国々からの留学生を増やすには、これは必須の改革でしょう。
――では、留学生を受け入れる側として、私たちはどのような心構えが必要でしょうか。
木村 たとえば日本人学生に目を向けると、最近の学生は留学生との交流に対して全体的に消極的なようです。私たちが学生の頃は留学生に限らず誰かれなしに周りの人の面倒を見ていたというのが私の実感です。その意味でも、留学生だけの宿舎はつくらず、日本人と混住させるという文部科学省の方針は正しいと思います。留学生が増えて、留学生との接点が増えるにつれて、日本人学生の意識も開けてくることを期待したいものです。

あるとき、マレーシアからの留学生の賃貸アパート探しを手伝ったのですが、後日、わざわざ大家さんから電話があり、「本当に素晴らしい学生たちだ」と大変な喜びようでした。思わず私も目頭が熱くなるほどでした。この他にも同じような経験がいくつもあります。大家さんは最初、留学生だと聞いて少し抵抗があったものの、彼らをよく「知る」につれ理解と親しみが生まれてきたのだと思います。

このように、少しずつではありますが、留学生にとっての日本の環境は、よい方向へと変わってきています。公の仕組みがさらに充実していけば、留学生がより学びやすく、より暮らしやすい社会に変わっていくことと思います。そして、それは、我々日本人にとってもよりよい社会になっていくということだと確信しています。
木村 孟 Tsutomu Kimura

1938年生まれ。61年、東京大学工学部土木工学科卒業。東京大学大学院数物系研究科土木工学修士課程修了。東京工業大学教授、同工学部長を経て、93年、東京工業大学学長に就任。98年より現職。文部科学省中央教育審議会副会長を兼務。ケンブリッジ大学チャーチルカレッジフェロー。

大学改革提言誌「Nasic Release」第18号より